ITサービス運用者にこれから求められるもの

2010年04月14日掲載

景気低迷の影響を受けて、企業はコスト削減を目的に、より多くの業務をアウトソーシングする傾向にあります。自分たちの業務をアウトソーシングされないために、ITサービス運用者には何が必要なのか― ITサービス運用者の現状を含め、PMI日本支部 会長 神庭(かんば) 弘年氏と事務局長 永谷 裕子氏にお話を伺いました。

■システムは作って1年、守って10年

− ITサービス運用者の現状はどのようなものなのでしょうか。

PMI日本支部 会長
神庭 弘年 氏

神庭:一度開発したシステムはよほどのことがないと作り直しをしませんから、使いにくいシステムでも運用し続けなければいけない場合が多くあります。システム開発するときは作りやすい方法で作る場合が多いのですが、「作りやすいもの=運用しやすいもの」ではないのです。

開発時の配慮ひとつで、障害がおきてもすぐ立ち上がる、万が一止まっても被害が少ないシステムはデザインできます。「このシステムはすくに復旧できるようにデザインしないとダメだ」という思いで作ったものと、「とりあえず動けばいい」という気持ちで作ったものとでは、その後の運用はまるで違ってくるのです。

システムは作って1年、守って10年と言われます。不幸にも「とりあえず動けばいい」という気持ちでデザインされたものを運用しなければいけなくなった場合、不自由な状態が10年は続いてしまうわけです。
運用はどうしても下流ととらえられてしまいがちです。開発されたシステムが強制的に運用に渡されてしまうので、「こんなシステムでは運用できません」とは言えません。多額の費用をかけて開発したものなので、否が応でも運用しないといけないのです。

PMI日本支部 事務局長
永谷 裕子 氏

永谷:どの企業でも言えることですが、開発担当者は開発の考えに、運用担当者は運用の考えになってしまいがちです。それを解決するために、開発プロジェクトの進捗レビューミーティングに運用担当者が参加する、という取り組みを実施した例もあります。また、運用のマネジャーと開発のマネジャーをローテーションして、お互いの業務を理解させるという方法もあります。それでもやはり運用をやりたがらない人が多い、というのが現状です。

 

−使いにくいシステムを10年も運用し続けていくのは企業にとってマイナスですね。このようなことが起きてしまう原因としてはどのようなことが考えられますか。

神庭:開発側の成功評価項目の中に、運用の視点が入っていないことがあげられます。
開発ではQCD(Quality:品質、Cost:コスト、Delivery:納期)については厳しく評価されますが、開発したシステムが運用に耐えうるものなのか、狙った効果を出せるものなのか、といった評価軸がないのです。運用面ではSLA(Service Level Agreement:サービス品質保証契約)がありますが、あくまでサーバーが安定運用しているかといった事を評価しているだけで、業務として価値を生んでいるか、という評価軸ではありません。

開発したシステムが本当に役立つかどうかは、運用してみないとわかりません。経営陣にとって、システムを運用して初めて投資費用、利益の回収が始まるのです。開発しただけではシステム化の目的は何一つ達成できていないということを理解する必要があります。

■自分の価値を上げよう

−景気低迷が続く中、企業はコスト削減に注力しています。ITサービス運用者にもその影響は及ぶのでしょうか。

神庭:海外を例にとると、情報システム部門が丸ごとアウトソーシングされることもあります。ITサービス運用者はどうしても「止めちゃいけない」というマインドになってしまうと思いますが、そろそろ考え方を変えなくてはいけない時期になってきているといえます。今後はシステム運用だけではなく、サービスストラテジ−などの知識を持っていることが重要になってくるでしょう。

−ITサービス運用者はどうするべきだと考えますか。

神庭:やはり自分の価値を上げることでしょう。「システムが動いていればいい」という考えで安住していたら、自分の価値を会社にアピールすることは出来ません。もう一歩踏み込んで、自分が運用しているシステムが会社の中でどのように機能しているのかを理解する必要があります。そのシステムの強み、弱みがわかれば、経営陣がシステム刷新を企画したときに、「そのやり方ではお金がかかりすぎます」といったことが提言できるのです。そういった役割を果たすことが出来れば、ITサービス運用者の価値は上がっていくのだと思います。

銀行や証券といった金融系はシステムが企業の生命線を担っているので、止めてしまうと即企業の経営にかかわります。一方製造業では、システムは生産ラインを止めないための道具なので、システムが止まったからといって担当者が即処罰されるわけではありません。

それぞれの会社のビジネスプロセスとシステムの関係によって、情報システム部門、ITサービス運用者が果たす役割は微妙に違ってきます。自社のビジネスプロセスと自分が運用しているシステムはどういう関係にあるのだろう、ということを常に考える必要があります。

■ITサービス運用者とプロジェクトマネジャーの相互交流を

−PMI日本支部として、ITサービス運用者を対象とした取り組みをする予定はありますか。

神庭:まず、ITサービス運用者が自分の価値を上げるためにはどんな知識を身につけたらいいのか?そういったメッセージを発信する必要があります。その結果、プロジェクトマネジメントの勉強をしてみよう、という気持ちの変化が起きればよいのではないでしょうか。すぐにPMP受験に結びつかなくてもよいと考えています。

今後は、若い人たちにもっとPMIのセミナーに参加してもらったり、プロジェクトマネジャーに運用の現実を知ってもらうことでPMPの価値を高めたり、といったことは行いたいですね。itSMF JapanとPMI日本支部が共同のシンポジウムなどを開催して、双方の会員が議論、情報交換できる場を設けるのも良いのではないでしょうか。

もう無神経にシステム開発する時代ではありません。プロジェクトマネジャーも、このシステムが運用された後何が起こるか、ということを理解しないといけないのです。この投資金額は何を根拠に認められたのだろうということが理解できないと、プロジェクトマネジャーもただの下請けになってしまいます。

ITサービス運用者についていうと、ITILがV2からV3にバージョンアップしたことで、日々の運用だけではなく、どのようにしてサービスを設計、開発、実装をしていくべきかということを戦略としてまとめることも含まれるようになりました。今までプロジェクトマネジャーが担当していた部分も知っておく必要が出てきたのです。

日々運用しているシステムを観察すると、問題点が見えてきます。それを継続的改善というV3のプロセスにのせることで、ITILが提唱するライフサイクルがうまくまわっていくのではないでしょうか。

永谷アウトソーシングを請け負っている企業では、プロジェクトマネジャーにITILのITサービスマネジメントのファンデーション資格取得を必須にしているところもあります。プロジェクトマネジャーであっても運用を知らなければ業務を受注できない、という考えがあるのでしょう。一部の企業ではすでに開発と運用の相互理解が始まっているのです。

−最後に、ITサービス運用者に向けてメッセージをお願いします。

神庭:企業戦略の実装、達成にはITが不可欠ですが、道具としてのITが経営の目的になるわけではありません。現在のビジネスプロセスは殆ど全て現在稼動中のシステムを前提として成立しています。企業の生命線ともいえる情報の発生から蓄積、つながり、加工、分析の実態について把握しているのは運用も含めた情報システム部門です。その意味で、情報システム部門は最強の部門とも言えるでしょう。

またプロセス・イノベーションには情報システム部門の役割は不可欠です。運用に携わる人々がそのことをどれくらい意識的に理解していますか?どんな状況でも期間や資源の制約の中で課題解決のために活動しようとすると、それはプロジェクトなのです。

永谷プロジェクトと言ってしまうと、進捗やリスクの管理はもちろんのこと、顧客との交渉や上司の説得もしなくてはいけない、と大変なことのように思ってしまいがちです。でもちょっと見方を変えてみると、人生の活動の全てはプロジェクトだと思うのです。婚活も就活も立派なプロジェクトです。就活を例にとると、4月から新入社員として働くというゴールがあって、そのためにいつ面接を受けるといったスケジュール管理を行いますよね。A社が駄目だったらB社に再挑戦するというリスク管理も行いますし。

そういったとらえ方をすると、プロジェクトはもっと身近なものになるのではないでしょうか。一つ一つのプロジェクトをいかに創造的、革新的に行えるかがカギになってくるのだと思います。

(文中敬称略)

取材を終えて-

神庭氏は以前itSMF Japanの理事をされていたこともあるため、PMPだけではなくITILについても丁寧に説明してくださいました。
みなさんも、自分の価値を上げるためにも日々の運用管理から一歩踏み出し、会社のビジネスプロセスとシステムの関係を見つめ直してみてはいかがでしょうか。そのためにITIL V3の知識を身につけ、実際の業務に活用するのは良い方法だと思います。

人生の活動の全てはプロジェクト、という永谷氏のお話はとても興味深いものでした。転職する、マイホームを買う、そういったこともプロジェクトなのですね。みなさんが次に行うプロジェクトはどのようなものですか?

プロメトリック株式会社
鹿倉 一葉

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