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問う力の測定と生成AI×CBTの活用可能性について

2025年06月02日
  • CBT
  • IBT

著者

大阪公立大学 教授 学長補佐
国際基幹教育機構/現代システム科学研究科
博士(工学) 池田文人(いけだ ふみひと)

2024年4月よりOMU(大阪公立大学)・教授、学長補佐(入試担当)。千葉県出身。京都大学理学部卒、NAIST修了(工学博士)。NTTデータ(1996年-2001年)、北海道大学(2001年-2024年)を経て現職。北大では、AO入試の開発と改善、総合入試の導入と評価、総合型選抜におけるコンピテンス評価の開発と導入に従事。OMUでは、Qi(Question-insight:問う力)の育成と評価による入試改革と高大社接続に取り組む。趣味は楽器演奏(Vn・Cb・P)とバドミントン。

少子化と大学の大衆化

 国立社会保障・人口問題研究所の将来推計人口によると、2035年(今から10年後)には18歳人口が現在(約110万人)の約8割、すなわち90万人以下にまで減少すると予測されている。こうした急激な少子化は大学経営に直結しており、地方大学を中心に定員割れのリスクが急速に高まっている。

一方、2024年度の大学進学率は59%を超えて過去最高を更新し、「誰もが大学に行ける時代」になりつつある。しかし、実際の大学進学者は前年から約4千人減少しており、急激な少子化が進んでいることが窺える。

この流れは、教育社会学者M.トローの指摘した「高等教育の大衆化」(Trow, 1974)の進行に重なる。すなわち、大学は少数のエリートを対象とした場から、一般大衆に開かれた教育機関へと性質を変えつつある。

大学の大衆化とともに進む学力・意欲の低下

大学の裾野が広がることは知識基盤の底上げとなり歓迎されるべき変化だが、それに伴い無目的あるいは周囲への同調という進学動機が蔓延し、学ぶ意欲の低下が以前より問題視されている(古市、1993)。最近の調査では、入学者の学力の多様化により、授業についていけない学生や、文章力や論理的思考力などの基本的なリテラシーが不足する学生が増加する傾向にある(全国大学生活共組合連合会,2023)。

こうした傾向は大学教育の質を低下させ、卒業生の社会的評価にも悪影響を及ぼす可能性がある。また入学者の学ぶ意欲の低下や学力の低下は、大学の重要な機能の一つである研究力の将来的な低下にもつながる。

つまり、少子化と大学の大衆化は、大学経営を見直す契機であるとともに、大学そのものの在り方を根本から問い直す契機でもある。

高大接続システム改革の三本柱

こうした課題を解決するためには、初等中等教育と大学、すなわち高等教育とをしっかりと接続させる必要がある。すなわち、初等教育(Primary Education)、中等教育(Secondary Education)に続く第三次教育(Tertiary Education)としての高等教育である。

文部科学省は2014年に設置した高大接続システム改革会議の中で、以下の三本柱を掲げ、これら三位一体の改革の必要性を打ち出した(高大接続システム改革会議,2016)。学力の3要素とは、①知識・技能、②思考力・判断力・表現力、③主体性・多様性・協働性、の三つである。

  • 高校教育改革:学びの質の向上、学力の3要素の包括的な育成
  • 大学教育改革:教育の質保証と出口の明確化
  • 大学入試改革:学力の3要素の多面的・総合的な評価

これらの改革が必要な理由は、①高校教育が大学入試に過渡に縛られていること、②大学がどんな学生を欲し(アドミッション・ポリシー)、どのような人材に育てたいか(ディプロマ・ポリシー)が不明確であること、③知識偏重の大学入試が学力の3要素の包括的な育成を妨げていること、などである。

高校教育改革:探究学習

高校教育改革の中心となるのが「総合的な探究の時間」である(文部科学省,2023)。いわゆる「総合学習」であり、小中学校に続き2022年度から高等学校でも必修化された。その目的は、生徒が自ら課題を設定し、情報を収集・整理・分析しながら、論理的に考え、他者と協働し、表現する力を身につけることである。

このような探究学習を通じて知識や技能は自然に習得されるため、探究学習は学力の3要素を包括的に育むための要となる。すなわち高校教育改革では、課題発見・課題解決に向けた主体的で探究的な学びが重視される。

しかし、実際の教育現場では探究学習の多様化が進む中、探究学習が調べ学習に終始してしまう、探究の出発点となる課題発見すなわち科学的な問いを立てることの指導が難しい、探究学習で培われた能力や資質をアセスメントする方法がない、など多くの課題を抱えている(山下・池田,2025)。

大学教育改革:教育の質保証と3つのポリシー

大学教育改革で「教育の質保証」が強く求められる。大学教育の質は以下の3つの段階で保証される必要がある(Scheerens, etc., 2011)。これら3つの要素に影響を与えるのはContext、すなわち大学が置かれている社会的な文脈である。大学のあるべき未来と現状を見据えた上で、3つの要素を設計し運用する必要がある。

  • Input:アドミッション・ポリシーに基づき、大学入試を通じて、入学者の質を保証する
  • Process:カリキュラム・ポリシーに基づき、授業設計や学習支援体制を通じて、教育の質を保証する
  • Output:ディプロマ・ポリシーに基づき、社会貢献や多様な進路を通じて卒業生の質を保証する

このように、大学教育はこれら3つのポリシーに基づいて質保証がされる。したがって、これら3つのポリシーを明確にすること、そしてこれらのポリシーにしたがってそれぞれの質を評価し保証する必要がある。

大学入試改革:総合型選抜と多様な人材の受け入れ

こうした高大接続の要となるのが大学入試である。すなわち、初等中等教育において、主に探究学習を通じて養われた学力の3要素を多面的・総合的に評価できる「総合型選抜」(旧AO入試)が推進されている(イノベーション・デザイン&テクノロジーズ,2023)。東北大学が今年1月に、2050年までに全定員を総合型選抜に切り替えるという報道発表をしたのは耳目に新しい。

総合型選抜では学力の3要素を多面的・総合的に見るために、学力試験だけでなく、志望理由書や面接、小論文、プレゼンテーション、ポートフォリオなどを通じて受験者を評価する。桜美林大学の探究入試Spiralの中には、大学が運営する探究プログラムの参加を求めるという長期に及ぶ選抜もある(桜美林大学,2021)。

総合型選抜の課題

学力の3要素を多面的・総合的に評価するためには理想的な総合型選抜だが、評価観点の設計の難しさ、業務負担の大きさ、評価結果の点数化の難しさ、など課題も山積している(イノベーション・デザイン&テクノロジーズ,2023)。特に教員の業務負担の増大は教員の研究時間を奪うことになり、研究力の低下にもつながる(文部科学省,2019)。

また、総合型選抜は、大学の少子化対策としても課題がある。すなわち、今後受験者数を維持するためには、海外の留学生や社会人を積極的に受け入れていくべきだが、そのような多様なバックグラウンドを持った受験者を、日本の高校生と同じ基準で評価することは極めて難しい。

現在の主に日本の高校生を対象とした総合型選抜でも問題となっている公平性と公正性が、留学生や社会人も対象とすると、さらに大きな問題になることが予想される。なぜなら同じ基準で評価すること(公平性)を担保することが難しく、かつ地理的・時間的に受験機会を平等にすること(公正性)がさらに難しくなるからである。

解決のカギ:問う力と生成AI×CBT

このような課題を解決するカギが、問う力を生成AI×CBT(Computer Based Testing)により測定である。すなわち、問う力という学力の3要素を包含する能力を測定するテスト問題を生成AIにより効率的に作成し、それらの問題を使って世界中でいつでも受験できるようなCBTを実現することである。

学力の3要素を包含する「問う力」

問う力は学力の3要素を包含する能力である(池田,2020)。問うためには、その対象と自分(が持っている知識や情報)とのギャップを認識する必要がある。自分の持っている知識や情報が高度であれば、高度な問いができる。したがって、科学的な問いには科学的な知識や情報が、創造的な問いには創造的な知識や情報が、求められる。

科学的な探究や研究に求められる問いは科学的である必要がある。科学の根幹は論理であり、論理におけるギャップを見つけることが科学的な問いになる。したがって、問う力には論理的かつ批判的な思考力が求められる。

また、探究や研究をするためには、見つけ出した数々の問いの中から、新しい知識の創造、あるいは社会への貢献といった観点から、探究・研究すべき問いを評価するという判断力が求められる。そしてその問いを適切に表現するとともに、問いに基づく探究・研究のプロセスや結果を表現するという力も必要となる。

さらに問いは、それが向けられた人を動機付けるという特徴を持つ(Senay, etc., 2010)。問いが自分へ向けられれば自分を動機付ける、すなわち主体性を促す。問いが他者へ向けられればその人を動機付ける、すなわち協働を促す。

このように問う力の育成は学力の3要素の包括的な育成に繋がる。そして論理は世界共通のものであるため、論理を適切に問う力は世界中どこでも通用するユニーバサルな能力である。

CBTが切り拓く大学入試の未来

日本全国のみならず世界中のあらゆる人たちが、時間や場所に束縛されずに大学入試を受けることができたら、どんなに素晴らしいことか。多様なバックグラウンドを持ち、多様な知識や能力を持った人たちが大学で学び合うことができれば、真の総合知を形成できるであろう。

CBTはそんな明るい未来を可能にしてくれる手段である。ここでのCBTとは、単に問題がコンピュータ上で表示され、受験者はそのコンピュータに解答を入力するというだけのものではなく、世界中を網羅するテストセンターにおいて、受験者が好きな場所で好きな時に受験できるというものである。これにより受験機会の公平性と公正性を担保できる。

このようなCBTでは、従来の大学入試に必要だった受験会場や試験監督、それらの運営管理、そして試験問題の配布や回収、チェックといった業務も不要になる。これにより、情報漏洩やチェックミスといった様々な人為的リスクを回避できる。

このような理想のCBTを実現するためには、IRT(Item Response Theory)に基づいたテスト開発が必要になる。問題が異なっても、受験者集団が異なっても、個々の受験者の問う力を適切に評価する必要があるからである(https://www.prometric-jp.com/column/archives/2を参照)。

生成AIが可能にする理想のCBT

問う力という新しい構成概念(測定したい能力など)を測定するテスト問題を作成し、解答を採点するためには、多くの人と時間と経費がかかる。さらに、出題ミスや採点ミスなどの人為的なリスクも避けられない。

こうしたコストやリスクの削減に生成AIが有効だと考えている。なぜなら、良問を作成するためには多数の問題を作成し、その中から良問を選び出す必要があるが、生成AIを使えば構成概念に基づいた多数の問題を効率的に生成できる。また、生成AIは構成概念に基づいたルーブリック(採点基準)を生成し、採点することも可能である。もちろん、最終的な判断は人が行うが、かなりのコストとリスクを削減できる。

また、IRTに基づいたテスト問題を作成するためには、一般的に予備試験を行なって難易度等を調整する必要があるが、生成AIを使えば想定される受験集団による受験シミュレーションにより、公平性や公正性を担保しつつ、IRTに適した問題を自動で検証することも可能であろう。

おわりに:大学の進化の最終形態へ

冒頭に紹介したM.トローは、大学がエリート教育から大衆化へ進むと予想したが、さらにその最終形態としてユニバーサル化を予想している。問う力というユニバーサルな能力を、生成AIを活用してユニバーサルに公平性と公正性を担保するIRTに適したテスト問題を作成し、それをユニバーサルに受験できるCBTで実現することにより、真のユニバーサル化への道を拓くことが期待できる。

引用文献

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